混合状態のエンタングルメントの評価

純粋状態に対しては,エンタングルメントエントロピーが定義されます.但し,二体系に対してのみ定義できることに注意が必要です.

エンタングルメントエントロピーを定義する前にvon Neumannエントロピーを導入します.混合状態\rhoに対してvon NeumannエントロピーS(\rho)

\displaystyle S(\rho):=-\text{Tr}(\rho\log_2\rho)

です.

さて,実は二体系の純粋状態|\psi\rangleについて以下の事実が成り立ちます.

\displaystyle \quad \text{Tr}_2 |\psi\rangle\langle\psi|=\text{Tr}_1 |\psi\rangle\langle\psi|\text{ for }|\psi\rangle\in\mathcal{H}_1\otimes\mathcal{H}_2

つまり,二体系の純粋状態に対してはどちらでトレースアウトしようが同じ混合状態が出来上がります.これらを,\rho_1,\rho_2と書けば,当然

\displaystyle S(\rho_1)=S(\rho_2)

になりますが,実はこれをエンタングルメントエントロピーと呼びます.

実際,二体系がテンソル積状態に「因数分解」されて

\displaystyle |\psi\rangle_{1+2}=|\phi_1\rangle\otimes|\phi_2\rangle

のようになっているときに(明らかにエンタングルしていません),

\displaystyle \text{Tr}_2 |\psi\rangle\langle\psi|=\text{Const.}\times|\phi_1\rangle\langle\phi_1|\propto |\phi_1\rangle\langle\phi_1|

なので

\displaystyle S(\rho_1)=\log 1=0

になります.

以上が純粋状態についての話です.混合状態については,エンタングルメントエントロピーは定義できませんが,混合状態についても,混合状態\rho

\displaystyle \rho_{1+2}=\sum_k p_k \rho_{1,k}\otimes \rho_{2,k}

のように書けている(セパラブル状態)ときに0になるような量が欲しいです(\rho_{1+2}は系1と系2の合成系という意味です).このような量をネガティビティといいます.なぜ,「ネガティビティ」と呼ぶかというと,密度行列\rhoの部分転置行列\rho^\text{PT}固有値が負であることと関係づいているからです(2体系について部分転置状態の非負性が\rhoがセパラブル状態であるための必要十分条件であることが示されています).ネガティビティ\mathcal{N}(1:2)

\require{amsmath}\displaystyle \mathcal{N}(1:2):=\sum_{{\lambda_i^\text{PT}}\lt0}|\lambda_i^\text{PT}| ; \quad\{\lambda^\text{PT}_i\}=\text{Spec}\left(\rho^\text{PT}_{1+2} \right)

で定義されます.つまり,ネガティビティの値が大きいほど,元の状態はセパラブル状態からかけ離れています.このことから,ネガティビティは混合状態に対してエンタングルメントエントロピーと似た意味を持ちます.両方とも2体系に対してしか使えないことに注意が必要です.

 

内容に全く関係ありませんが,はてなブログで不等号が表示されずに,結構手こずりました.\ltで小なり,\gtで大なりだったんですね.