逆順の和は定積分のKing property,差分の和は微積分学の基本定理

等差数列の和の公式を初めて習うときに教わる証明法は「逆順に和をとっても同じ」という足し算の普遍的性質を活用するものです.

 \displaystyle \sum_{k=\alpha}^\beta a_k=\sum_{k=\alpha}^\beta a_{\alpha+\beta-k}\quad\text{i.e.,}\sum_{k=\alpha}^\beta a_k=\frac{1}{2}\sum_{k=\alpha}^\beta\Bigl( a_k+a_{\alpha+\beta-k}\Bigr)

を使って,

\displaystyle S=\sum_{k=1}^n k=\frac{1}{2}\sum_{k=1}^n \Bigl[k+(n+1-k)\Bigr]=\frac{1}{2}\sum_{k=1}^n (n+1)=\frac{1}{2}n(n+1)

です.この,逆順に足す方法自体は,等差数列の和の公式の証明ぐらいでしか登場しませんし,大して有用なものではありません.実際この証明は,別の方法でもできます.すなわち,

 \displaystyle\sum_{k=1}^n k=\sum_{k=1}^n \frac{1}{2}\{k(k+1)-(k-1)k\}=\frac{1}{2}n(n+1)

こちらは高校数学で数列の和を考える際の定石である,差分の和

\displaystyle \sum_{k=\alpha}^\beta a_{k+1}-a_k=a_{\beta+1}-a_\alpha

を使ったもので,等差数列の和を考える際に,わざわざ逆順に足すという汎用性に乏しい方法を選ばなくても楽に示せるということが分かります.では,この方法を学ぶ意義は若き日のGaussのエピソードを面白がれる程度のものなのでしょうか?そんなことはありません.

この話を離散的な和から連続的な和,つまり積分に拡げると,逆順に足す方法が有用公式,所謂King propertyへと変貌します(やっていることは同じですが).ヨビノリが取り上げて有名になった公式です.すなわち上のシグマをインテグラルに置き換えて,

\displaystyle \int_\alpha^\beta f(x)dx=\int_\alpha^\beta f(\alpha+\beta-x)dx

となります.この公式は非常に有用なのですが,なぜか,高校の教科書には取り上げられていません(もしかしたら見落としているだけかもしれませんが).これを使えば,

 \displaystyle \int_0^{\pi/2} \ln (\cos x) dx

 \displaystyle \int_0^{\pi/2} \frac{1}{1+(\tan x)^\sqrt{2}} dx

のような積分が考えやすくなります.また,

 \displaystyle \int_0^{\pi/2} \frac{\sin x}{\cos x + \sin x}dxはもはや暗算レベルです.

さらには,有用な公式

 \displaystyle\int_{-L}^L \frac{f(x)}{1+a^x}dx=\int_0^L f(x)dx\,\,;\,\,\,f(x)=f(-x)

もこの性質に包含されます.

さて,離散和のときは有用だった,差分の形にする方法ですが,こちらは積分では微積分学の基本定理(Stokesの定理)そのものです.すなわち

\displaystyle \int_\alpha^\beta df=f(\beta)-f(\alpha)

です.因みに等比数列の和の公式も指数関数r^kの差分r^{k+1}-r^kが指数関数になることを利用して示されますが,これは指数関数の微分が指数関数になることと対応します.

離散和での2大定石(?)が積分でも有用なことが判りました.

 

逆順の和が数列でも有効になる問題例:

\displaystyle \sum_{k=0}^n \frac{\sin\left(\frac{k\pi}{2n}\right)}{\sin\left(\frac{k\pi}{2n}\right)+\cos\left(\frac{k\pi}{2n}\right)},

\displaystyle \sum_{k=-n}^n \frac{k^2}{1+e^k}

こういう問題に数列の段階でたくさん触れていればいい意味でKingを知った時の感動は薄れると思います.

 

部分積分と同じことを数列の和で行うことについても記事を書きました.よければ併せてご覧ください:

 

ysdphy.hatenablog.com